米雇用統計「2月ショック」、消えた楽観論 
原油高でFRBジレンマ

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Nikkei Online, 2026年3月7日 5:42

企業はレイオフ(一時解雇)も新規の採用も手控えている(2月、米東部メリーランド州)

【ワシントン=高見浩輔】米労働省が6日公表した2月の雇用統計は、民間部門が前月比8.6万人減と約5年ぶりの落ち込みを記録した。イラン攻撃にともなう原油高が重なり、高インフレと景気悪化が併存するスタグフレーションの懸念が強まる。議長交代を控える米連邦準備理事会(FRB)は難しいかじ取りを迫られる。

民間部門は約5年ぶりの落ち込み

政府部門を含めた非農業部門就業者数は9.2万人の減少だった。5〜6万人の増加を見込んでいた市場予想からは約15万人程度の下振れとなる。直近3カ月平均でみた伸びも6000人にとどまる。予想外の増加幅だった1月からの楽観論が一気にしぼんだ。

医療関係者のストライキや悪天候など特殊要因を除いても、悪い数字という見方が多い。2月の民間部門の就業者数はコロナ禍だった20年を除けばリーマン危機の08〜09年以来の落ち込みだ。

米ウェルズファーゴのエコノミストは「FRB当局者の間で高まっていた労働市場の安定化という見方に疑問を投げかけるもの」と指摘する。

統計公表直後に米CNBCに出たサンフランシスコ連銀のデイリー総裁は、単月の数字だけで判断すべきではないとしつつ「労働市場はこれまでよりも少し弱いかもしれない」と認めた。

「採用なき安定」楽観論に冷や水

デイリー氏が指摘したのは「採用も解雇も少ない労働市場はあらゆる変化に対して脆弱」という点だ。

これまで楽観論の背景には、増えないレイオフ(一時解雇)への安心感があった。一部企業は人工知能(AI)の普及などを理由に人員削減計画を打ち出したが、経済全体では低水準で、失業保険の申請件数も増えていない。

だが一方で企業は新たな採用も手控えている。米コンファレンス・ボードの消費者信頼感調査では「仕事を見つけにくい」と答える人が2月に21%に達した。コロナ禍前の19年12月は13%だった。

失業が急増しているわけではないが、一度職を失うと再就職は難しい。米国の労働市場は危ういバランスの上にある。

「戦時下」の利下げ、次期議長に難題

FRBは雇用悪化と物価の高止まりという両面のリスクに挟まれる。

米国とイスラエルによるイラン攻撃により、原油価格は上昇を続けている。6日には原油先物市場でWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の期近物が一時1バレル92ドル台後半に上昇した。

地政学的なリスクによる価格高騰は一時的との見方も多いが、事実上封鎖状態にあるホルムズ海峡の緊張がいつ緩和するかは見通せない。FRBにはコロナ禍の供給網の混乱などで始まった高インフレを「一時的」と主張し続けて批判された過去がある。

トランプ米政権による関税の引き上げを企業が販売価格に転嫁する動きもまだ続いている。米個人消費支出(PCE)物価指数は25年12月時点で前年同月比2.9%上昇し、目標の2%を上回ったままだ。FOMC内には追加利下げに慎重な意見が根強くある。

FRBの次期議長に指名されたケビン・ウォーシュ氏(2011年、米東部ニューヨーク)=AP

今のところ、パウエル議長が議長として最後に参加する4月の米連邦公開市場委員会(FOMC)までFRBは追加利下げを見送ると読む市場参加者が多い。金利先物市場では6日午後時点でこのシナリオが8割程度を占める。

注目されるのはウォーシュ次期議長が就任した後の6月会合だ。ウォーシュ氏は指名後、一度も公の場に姿を現していない。米連邦議会上院で人事案の承認に向けた公聴会が初の舞台になる可能性があり、注目が集まっている。

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