Nikkei Online, 2025年4月3日 8:02更新
【ワシントン=八十島綾平】トランプ米大統領は2日、世界各国からの輸入品に対して「相互関税」をかけると公表した。原則、各国に10%の関税をかけたうえで、国・地域ごとに異なる税率を上乗せする。日本には合計で24%の追加関税を適用する。
年1.2兆ドル(179兆円)を超える米国の貿易赤字や国内産業の空洞化を「国家の緊急事態」と認定し、大統領権限で関税を発動する。
トランプ氏は米東部時間2日午後4時(日本時間3日午前5時)から米ホワイトハウスの中庭「ローズガーデン」で演説した。「2025年4月2日は米国の『解放の日』として永遠に記憶される」と話し、相互関税を実施するための大統領令に署名した。
国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく措置。トランプ氏が公表した新たな関税は、すべての国にかける10%の「基本税率」と「上乗せ税率」に分かれる。上乗せ分が、相手国と同水準まで関税率を引き上げる趣旨を持つ相互関税の中核要素になる。
基本税率は米東部時間5日午前0時1分(日本時間5日午後1時1分)に発動する。上乗せ税率の発動は9日午前0時1分(日本時間9日午後1時1分)からとなる。
自動車・自動車部品や鉄鋼・アルミニウムなど、分野別で追加関税を課す品目は相互関税の対象から外す。
上乗せ税率がかかるのは、米政権が「最悪の違反者」と認定したおよそ60カ国・地域だ。関税率だけでなく、消費税や為替政策や規制などの非関税障壁を加味する。日本は認定されたもようだ。
トランプ氏は2日の演説で「諸外国は米国製品に多額の関税をかけ、法外な非関税障壁を設けて米国の産業を破壊しようとしてきた」と主張した。日本については、自動車分野の規制に言及したほか「コメに700%の関税をかけている」と批判した。
トランプ政権は非関税障壁などを含めると、日本は実質的に米国に46%の関税をかけているに等しいと認定。46%のおよそ半分にあたる24%の税率を適用することにした。
既に25%の追加関税を発動しているカナダ、メキシコは相互関税の対象から当面外す。現行の追加関税が終了した後には12%の相互関税に移行するが、その場合も米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の基準を満たす輸入品は対象外になるとしている。
欧州連合(EU)の税率は20%、中国は34%、インドは26%とした。中国については、既にかけた20%の追加関税に相互関税の34%を上乗せするとした。米国が中国製品にかける関税率はトランプ氏が2024年大統領選で公約として掲げていた60%に近づく。
2025年4月3日 16:14更新
トランプ米大統領は2日、世界各国からの輸入品に対して「相互関税」をかけると公表した。演説の要旨は次の通り。
米国民の同胞たちよ、今日は「解放の日」だ。2025年4月2日は、米国の産業が生まれ変わった日、米国が宿命を取り戻した日、そして米国を再び裕福にするために我々が動き始めた日として永遠に記憶されるだろう。
我々の国家は何十年にもわたり、距離や敵味方にかかわらず、あらゆる国家により物色、略奪、そして陵辱されてきた。我が国とその納税者たちは50年以上にもわたってぼったくられてきた。この心配はもうない。
私はまもなく、相互関税を設ける歴史的な大統領令に署名する。相互関税だ。つまり「やられたらやり返す」ということだ。これ以上単純なことはない。
今日は米国史上、最も重要な日のひとつとなると思う。我々の「経済的独立宣言」だ。我々が繁栄するときが来た。(関税発動によって得た)何兆ドルもの資金を使い、迅速に減税を進め、政府債務も減らす。本日の措置により、我々はやっと、米国を再び偉大にすることができる。
米国は何十年にもわたり、他国との貿易障壁を切り崩してきたが、こうした国々は我々の製品に多大なる関税を課し、我々の産業を破壊するために言語道断な非関税障壁を設けた。
彼らは為替を操作し、輸出品に補助金を出し、知的財産を盗み、過剰な付加価値税(VAT)を課し、我々の製品が不利になるよう不公平な規則を設けた。米国はこれまで反応を示さなかったが、そうした日々は終わる。
こうした悪質な攻撃の例を挙げよう。
米国は外国製のオートバイに2.4%の関税しかかけていない。しかし、タイは60%と高い関税を課しており、インドは70%、ベトナムは75%も課す。それ以上高い国もある。
同様に、米国は外国製の自動車に2.5%の関税を課していた。欧州連合(EU)は我々に10%の関税を要求し、20%のVATも上乗せする。
韓国や日本などが(米国に)課してきた非関税障壁は特にひどい。日本国内の自動車のうち94%は日本製だ。しかし、トヨタは外国製の自動車100万台以上を米国に売りつける。我々の企業は他国への進出を許されていない。
敵も味方も同じだ。味方のほうがひどいケースもある。こうした(貿易の)不均衡は我々の産業基盤を破壊し、我が国の安全保障を脅かす。こうした国々を責めるつもりはない。私は、こうした事態を許容し、仕事を怠った過去の大統領たちを責める。
そこで、深夜(米東部時間4月3日午前0時1分)から我々はすべての外国製の自動車に25%の(追加)関税をかける。
今日の措置により、散々な目にあってきた我が国の素晴らしき農家や牧場主のために、我々は立ち上がることができる。
カナダは、我々の乳製品の多くに250〜300%の関税をかけている。我々の農家、我が国にとって不公平だ。カナダのような国は我々の補助があるからこそビジネスが続いている。メキシコ(への補助金)は年間3000億ドル、カナダは年間2000億ドル近くだ。
我々はなぜこのようなことをしているのか。自分たちのために働き始めないといけない。これだから、ここ数年で債務は肥大化した。これ以上は看過できない。
EUは非関税障壁を通して、米国産の鶏肉の輸入を禁止した。彼らは「自動車を輸出したい。あらゆるモノを輸出したい。しかし、あなた(米国)が持つモノはいらない」という。オーストラリアも、国民は素晴らしいが、米国産の牛肉の輸入を禁止している。それでも、我々は昨年だけでオーストラリア産の牛肉を30億ドル分輸入した。
我々の友である日本は(米国産のコメに)700%の関税をかけている。我々にコメを売ってほしくないからだ。誰も責めることはできない。
日本はとてつもなくタフで、国民も素晴らしい。彼らを責めない。とても賢いことだ。彼らは我々に46%(の関税)をかけている。自動車など特定の製品はさらに高い。彼らには(相互関税を通し)24%の支払いを要求する。
日本の首相、シンゾー(安倍晋三元首相)は素晴らしい男だった。不幸にも、暗殺によって命を落とした。
しかし、私は(かつて)彼に対し「シンゾー、貿易に関してやるべきことがある。(現状は)公平ではない」と伝えた。彼は「知っている」と言った。彼は紳士的で、直ちに理解した。そして、我々はディール(取引)を成立させた。
我々は、他国が200%、300%、400%の関税を設ける品目に対し、2.8%の関税しか課していない。関税や保護主義的な障壁が国家を貧しくするのであれば、地球上すべての国家が迅速にこうした政策を撤回するだろう。
米国は1789年から1913年にかけ、関税に支えられた国だった。比率でみると(米国が)最も豊かだった期間だ。カネが腐るほどあった。
しかし、信じられないことに、外国ではなく国民を財源とする所得税を1913年に設けた。そして(米国の繁栄は)1929年の大恐慌によって幕を閉じた。
我々はより賢くなり、再びとても裕福になる。我々はどんな国よりも裕福になれる。信じられないほどに。
大恐慌から1世紀近くたち、米国は経済戦争に直面している。我々はカナダ、メキシコ、そしてその他多数の国家の赤字を補助し続けるわけにはいかない。我々は世界中の国の面倒を見てきた。我々は彼らの軍事費を払う。
彼らが払うべきものを、我々が払っている。残念ながら、我々は自国民を優先しなければならない。
米国では「スリーピー・ジョー」(バイデン前米大統領)のもと、製造業の雇用流出が続き、貿易赤字は前代未聞の1兆2000億ドルに到達した。
米国は、自国の患者を診るだけの抗生物質を国内で生産できない。深刻な問題だ。戦争など、何かがあっても、対応できない。パソコン、携帯、テレビ、電化製品のほぼすべてを輸入に頼る。
米国はかつて、こうした分野を支配していたのに、今では他国から輸入している。中国にあるたった一つの造船所が、米国内の全造船所よりも多くの船舶を造ることができる。つまるところ、慢性的な貿易赤字はただの経済問題ではなくなった。我々の国家、そして生活を脅かす非常事態だ。
我々の良識に反論する企業に対して説明する。これは「優しい」相互関税だ。
関税率がゼロであってほしいのであれば、自社の製品を米国内で製造すればいい。国内で生産した製品には関税がかからない。
ソフトバンク(グループ)など、偉大な企業は5000億ドルを直ちに投資する。半導体の業界で最も重要な企業である台湾積体電路製造(TSMC)も2000億ドルの投資を発表した。関税が理由だった。彼らは関税を払いたくない。米国内で工場を造ることで、関税を回避できる。
米国は全く違う国へと生まれ変わる。労働者にとって素晴らしいことだ。皆にとって素晴らしいことだ。企業などはかつてないほどの雇用と資金を流入させている。とても美しい。
今日は米国解放の日だ。数年後に、あなたが「彼(トランプ氏)は間違っていなかった。我が国にとって、あの日は最も重要な日の一つだった」と振り返ることを期待している。
(ワシントン=赤木俊介)