Source: Nikkei Online, 2026年5月7日 11:47更新

【シリコンバレー=山田遼太郎】人工知能(AI)新興の米アンソロピックが攻勢に出ている。6日に技術イベントを開き、起業家イーロン・マスク氏率いる米スペースXと提携すると発表した。自律的に動くAIエージェントの使い勝手を高める新機能も公表した。
アンソロピックは業界全体のAI開発の方向性を左右する存在になってきており、企業価値も比例して高まっている。
ファンドなどが未上場株を売買する「セカンダリー(2次流通)」市場での取引価格を集計する米キャップライトによると、アンソロピックの企業価値は4月下旬に初めてオープンAIを上回った。5月5日時点では9720億ドル(約152兆円)の評価がついている。
米ブルームバーグ通信は4月下旬、アンソロピックが9000億ドル以上の評価額を前提に追加の資金調達を検討していると報じた。新技術で企業価値を高め、多額の資金調達をする好循環を生み出す。2026年内の米上場も視野に入れる。
米西部カリフォルニア州サンフランシスコで開発者会議「Code with Claude(コードウィズクロード)」を開催した。自社の技術イベントは2回目だ。
スペースXの2つのデータセンターのうち、「コロッサス1」のサーバー全量を使える契約を結んだ。「チャットGPT」開発の米オープンAIと競合する2社が、AIを動かす基盤となるデータセンターの確保で連合を組む形となる。
アンソロピックはAIの利用急増に伴い、データセンターの確保が課題だった。設備が余っていたスペースXからAIの計算処理に使うサーバーを借りる契約を結び、自社向けに転用する。
同日から複数の新技術の提供も始めた。目玉がAIエージェントに記憶力を持たせる「ドリーミング」だ。AIが作業経験から学ぶことができるとし、人間が睡眠中に記憶を定着させる様子になぞらえた。

実行したタスクについてAIが自動で振り返り、利用者が好む仕事の進め方やよく起こるミスを覚える。記憶した内容を整理し、次の作業時に生かす。
企業が導入すると、社員が稼働させている複数のエージェントにまたがって、作業についての知見を共有できるという。
会話履歴などを一時保存するだけでなく、AIが一度得た知識を忘れず、積み重ねて賢くなることは「継続学習」と呼ばれ、AI開発における次の進化として期待される。
アンソロピックはドリーミングをAIの継続学習の実現に向けた一歩と位置づけた。
プラットフォーム開発責任者、ケイトリン・レス氏は日本経済新聞の取材に「AIエージェントの活用時に最も多い不満は、AIが過去の作業を記憶できず、毎回ゼロから課題に着手することだった」とし、「使うほど賢くなるエージェントの実現につながる技術だ」と強調した。
ほかにエージェントの作業結果について、自社がどんな成果を高く評価するかを設定する「アウトカム」と呼ぶ機能も発表した。企業が自社の求める基準に沿ってAIに作業させやすくなる。
複数のエージェントに作業を割り振り、動作を効率化する「マルチエージェントオーケストレーション」と呼ぶ技術の一般提供も始めた。

高性能のAIモデルを指示役、高速で安価に動くAIモデルを作業の実行役といったようにAIの間で作業を分担することにより、運用コストを下げられるという。
ダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は次に期待するAIの進化について「個人が1人で10億ドルのビジネスを作れるようになる」と述べた。
AIが1人の人間の代わりに作業をこなすだけではない。企業など組織全体に匹敵する規模でタスクの自動化を実現できれば、大きな効果を生み出す。
一方で、アモデイ氏は想定外の急成長で計算のリソース不足に直面していることを認めた。
調査会社によるAIの性能指標では、アンソロピックとオープンAIは首位争いを繰り広げている。アンソロピックが開発競争のトップランナーでいられるかどうかは、企業価値を高め続け資金調達でリソース不足を解消できるかどうかにかかっている。